近年、多くの植物ウイルスについて、ゲノムの構造が決定され、その機能が逆遺伝学の方法により調べられている。しかし、ウイルスゲノムの宿主細胞内における発現や複製、あるいはウイルスの増殖機構については不明の点が多く残されている。本研究では、電子顕微鏡(電顕)レベルのin situハイブリダイゼーション法を用いて、ウイルスゲノムの動態を宿主細胞の微細構造と関連させて詳細に調べ、ウイルスゲノムの宿主細胞内における発現や複製、あるいはウイルスの増殖機構を主に細胞生物学的な面から明らかにしようとした。 しかし、現在、まだ電顕レベルのin situハイブリダイゼーション法は十分に確立されたものがないので、まずその有効な方法を開発する必要がある。そのため、タバコモザイクウイルス(TMV)のRNAを接種したタバコプロトプラストを用いて、固定法や包理の方法(樹脂の種類など)、前包理反応法あるいは後包理反応法によるin situハイブリダイゼーション法、核酸プローブの種類[核酸の種類(DNAあるいはRNA)や大きさ、標識マーカーの種類)、ハイブリダイゼーション反応やその可視化法などについて種々検討を加えた。その結果、TMV接種タバコプロトプラストを4%パラホルムアルデヒド+0.5%グルタルアルデヒド混合液で室温で2時間固定し、アルコールで脱水、Lowicryl K4Mに包理、超薄切片を作成し、これにTMV外被タンパク質遺伝子のcDNAよりin vitro転写系により合成したイゴキシゲニン標識RNAプローブを用いハイブリダイゼーションを行い(後包理反応法)、抗ジゴキシゲニン抗体と金コロイド標識プロテインGを用い可視化する方法で良好な結果が得られた。この場合、金粒子の標識はプロトプラストの細胞質の電子密度のやや高い部位に認められ、ここにTMVのRNAが局在することが明らかとなった。今後、この方法を用い、さらに詳細にウイルスRNAの細胞内の局在を検討できると考えられる。
|