本研究は、植物病原糸状菌の染色体異変の解析を可能とする新たな細胞遺伝学的解析技術の確立を目指して実施した。成果は下記の通りである。 1.染色体同定技術の確立 Fusarium solaniを主対象としたパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)と蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法(FISH)の技術を確立した。PFGEでは、約6Mb〜500kbの染色体を分離することによる電気泳動核型の解析が可能となった。FISHについては、プラスミド、コスミド、全核DNA、PFGEで分離した染色体バンドに由来する個別染色体DNA等をプローブに用いることができた。個別染色体DNAをプローブにするためのPCRによる増幅法も確立した。 2.染色体の同定と解析 F.solani、Botrytis cinerea、Alternaria alternataの3菌について核小体形成体(NOR)の座乗する染色体をFISHとPFGEにより同定した。また、F.solaniでは核分裂に伴うrDNAの形態変化をFISHにより明らかにした。次に、F.solaniのゲノム中に存在するB染色体を3種類のFISH(B染色体特異的コスミドクローン、genomic in situ hybridization、 染色体ペインティング)を用いて検出した。これは、菌類のB染色体を細胞学的に観察した最初の例である。さらに、複数染色体特異的なプローブ(プラスミド、コスミドクローンの併用、あるいはPFGEで分離した複数の個別染色体DNAを使用)を利用した2色FISHによるゲノム中の2本の染色体の同時同定にも成功した。
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