研究概要 |
本研究は、形態的に乏しい土壌伝染性植物病原菌Rhizoctonia属菌の系統分類学的な位置関係を、化学分類学的および分子遺伝学的手法により検討したものである。まず、化学分類学的手法としてGLCによる菌体脂肪酸分析により、また、分子遺伝学的手法として28S ribosomal RNA(rRNA)のPCR-RFLP解析による検討を行った。脂肪酸分析の結果、菌体から9種類の脂肪酸が検出された。それらの脂肪酸組成比に基ずく主成分分析とクラスター分析を行った結果、Rhizoctonia属の4菌種(R.solani,R.oryzae,R.fumigata,R.oryzae-sativae)および近縁のSclerotium hydorohilium間には脂肪酸組成比に関して顕著な違いがみられた。また、R.solaniの菌糸融合群(anastomosis group,AG)間ではAG-1 IA(イネ紋枯病系)と他のAGとの間に顕著な違いがみられた。またAG-1,AG-2,AG-4には、それぞれ脂肪酸組成比を異にするサブグループが存在した。一方、28S rRNA遺伝子を制限酵素Hha IとMsp Iを用いてPCR-RFLP解析した結果からも、Rhizoctonia属菌種はそれぞれ系統分類学的にかけ離れた位置関係にあり、独立して分化してきた集団であることが示唆された。また、AG-1 IAは、R.solaniから分化してきたと考えられるものの、他のAGとはかなりかけ離れた位置関係にあることが明らかになった。またAG-1,AG-2,AG-4には、脂肪酸分析と同様にサブグループの存在が明確にされた。以上の結果から、R.solaniは多数の系統から構成される複合種であり、少なくともAG-1 IA(イネ紋枯病系)は、今後独立種として扱うべきであることが明らかになった。また、GLCによる菌体脂肪酸分析およびrRNA遺伝子のPCR-RFLP解析が、病原微生物の系統分類に極めて有効であることが明らかとなった。
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