Autographa californica nuclear polyhedrosis virus (AcNPV)をカイコ5齢幼虫に接種した場合、もしくはカイコ由来の培養細胞に接種した場合、どの程度ウイルスの増殖がみられるのかを調べたところ、いずれの場合にも出芽ウイルスの産生が確認された。さらに、5齢幼虫にAcNPVを接種した場合、幼虫から蛹への変態は観察されたが、蛹から蛾への変態は阻止された。また、この5齢幼虫及び蛹から血液を採取し、出芽ウイルスを定量したところ、このAcNPVの増殖は暗黒期が極めて長い増殖曲線を描くことが判明した。一方、蛹期での発育停止はエクジステロイドの投与により回避された。これらの結果は、AcNPVがカイコにおいて持続的に感染することを示すものであり、またさらに本ウイルスはカイコに外部から遺伝子を導入するためのベクターとして活用できることを示唆している。そこで、ショジョウバエの熱ショックタンパク質遺伝子のプロモーターの下流にホタルのルシフェラーゼ遺伝子をつないだものをAcNPVのゲノム内にクローニングした組み換えAcNPV(リコンビナントウイルス)を作製し、このリコンビナントウイルスを5齢幼虫に接種した。PCR法やサザンハイブリダイゼーション法により、このルシフェラーゼ遺伝子は次世代以降(4世代)にまで安定して伝えられていることや、また2世代目まではルシフェラーゼを発現していることが確認された。さらに、ルシフェラーゼ遺伝子の伝達はメンデルの法則に従っていたことから、カイコ染色体にこのルシフェラーゼ遺伝子が組み込まれているものと推定された。 以上の結果は、昆虫ウイルスを利用することにより初めてカイコに遺伝子を外部から導入したことを示したものである。
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