本研究の目的はイネ科植物の鉄欠耐性機構を解明するために鉄欠乏条件下で根より分泌され根圏の鉄を可溶化吸収する鉄輸送活性物質ムギネ酸類の生合成経路の解明をめざしている。 今年度は、イオウ代謝とムギネ酸生合成の関係を調べる実験を行った。水耕培地のイオウ濃度を0から10mMの範囲で変えて鉄欠細胞した時、根のムギネ酸分布量はイオウ濃度の減少に従って減少した。また、^<14C>-グルコースを用いてムギネ酸の合成速度を測定したところ、これも同様の結果であった。このことは、ムギネ酸の合成速度が根内のSO_4^2濃度により酵素的に制御されていることを示唆していた。このことを昨年の結果であるグルコースはホモセリンを経由せずメチオニンとなりムギネ酸に合成されることと考えあわせるとグルコースは未知の経路を通ってメチオニンに変換され、その経路上の未知物質へのイオウを導入反応がSO_4^2濃度により制御されると考えられる。 また、代謝阻害剤を用いた実験を行い、酵素のSH基の阻害剤であるDTNB、PCMB、βシアノアラニンがメチオニンの^<14C>のムギネ酸への取り込みを促進するという興味深い知見も得た。 酵素精製の前段階として鉄欠オオムギ根の酵素阻抽出液(無細胞抽出系)を調製し、代謝実験を行った。その結果、ホモシステインが無細胞抽出系でメチオニンの^<14C>のムギネ酸への取り込みを強く抑制するとの結果を得た。これはホモシステインがムギネ酸合成系に対しメチオニンのアナログとして拮抗阻害する可能性を示唆している。これは、今後の酵素精製に利用しうる有益な知見である。 今年度の結果は、いずれも鉄欠乏耐性機構であるムギネ酸合成機構に、イオウが深く関わっていることを示唆している。鉄欠耐性とイオウとの関わりというこれまで予想されなかった事実を明瞭に示す実験結果を得たことは有意義であったと考えている。
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