亜鉛の生理作用は現在、蛋白質合成やオーキシンとの関係などの観点から検討されているが、その中で、亜鉛欠乏症の発現は光と関係があることが経験的に知られている。即ち欠乏症の発現は強い直射日光が当たる南側で北側よりも著しいことが2、3の植物で報告されている。そこで亜鉛欠乏症と光の関係について水稲を用いて詳細に検討した。 水稲を2〜3週間亜鉛添加区(+Zn)と無添加区(-Zn)の条件下で水耕栽培した。-Zn区に葉の伸長抑制が認められ始めた段階で、一部の個体を寒冷紗で遮光し、-Znの非遮光区に亜鉛欠乏によるネクローシスが見られ始めるまで(約10日間)遮光を続けた。遮光処理後植物体を採取して、生育量、SOD活性、過酸化物量の測定を行い、また栽培旗艦中溢泌液を採取し、遊離アミノ酸の測定を行った。また同じく栽培期間中に葉を採取し、ESRを用いた水稲葉中のラジカルの測定を行った。そして亜鉛欠乏によるそれらの値の変化と、さらに植物を遮光した際の影響について比較検討した。 どの測定項目においても+Zn区と-Zn区の間では明らかな差が認められた。-Zn区の遮光と非遮光区の間には次のような幾つかの差異が認められた。(1)遮光区では、非遮光区で見られる葉のネクローシスが発生しなかった。(2)遮光区では、非遮光区と比べて過酸化物量が少なかった。(3)遮光区では、非遮光区と比べて溢泌液のニンヒドリン反応呈色物質が少なかった。しかしSOD活性は-Zn区の遮光区と非遮光区との間に差異が認められなかった。 以上の結果は、遮光処理が亜鉛欠乏により引き起こされる現象を緩和することを示しており、光・酸素障害が亜鉛欠乏下で顕在化することが明らかとなった。
|