チャ樹(Camellia sinensis)のカフェイン代謝研究の過程において、未熟果実の果皮と種子(子葉)に大量出現する未同定のニンヒドリン陽性物質を見出した。そこで、この物質について、二次元薄層クロマトグラフィ(TLC)や高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により単離、同定し、さらにチャ樹における代謝や生理的役割を明らかにすることを目的として研究を進め、これまで次のことを明らかにした。 1.チャ樹の未熟果実から見出された未同定のニンヒドリン陽性物質の単離、同定 (1)二次元TLC上の個別アミノ酸検出反応のうち、イサチン反応陽性であり、〔環状イミノ酸〕、アミノ酸及びイミノ酸標品のRf値やニンヒドリン反応の色調との比較から、プロリン同族体のピペコリン酸と同定した。 (2)島津HPLCアミノ酸分析システム(陽イオン交換法/Li型、OPA-蛍光法)により、アミノ酸標準溶液(ピペコリン酸及びテアニンを含む)のクロマトグラムで約60分にピペコリン酸のピークが検出された。またチャの果実(果皮、種子)試料からもそれと同じ保持時間にピテコリン酸のピークが検出されることと、既知量のピペコリン酸溶液を試料中に添加してそれに対応するピーク面積の増加することから、ピペコリン酸の同定を確認した。 2.チャ樹の果実成育(種子形成)等に伴うピペコリン酸の消長と役割 (1)6月中旬から9月上旬に未熟果実(特に種子)中の大量に含まれたが(総遊離アミノ酸の約70〜80%)、完熟種子(子葉)ではほぼ消失した。この結果、種子形成(子葉肥大)に重大な役割を果たすと考えられた。 (2)新芽や若葉からも見出され(5〜10%)、茶場品質との関連が示唆された。
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