平成8年度の研究結果として、まず、大腸菌4.5S RNAを放射能ラベルしたプローブを用いたゲルシフト法を確立し、大腸菌菌体内蛋白質について解析し、2種類の4.5S RNA結合蛋白質が存在することを明らかにした。ゲルシフト法を用いて4.5S RNA結合活性をモニターし、この2種類の蛋白質を精製したところ、すでに結合能が示されていたFfh蛋白質以外に、タンパク質伸長因子EF-Gが新たに同定された。大腸菌をはじめとする真正細菌のSRP RNAの機能としてタンパク質の分泌以外に翻訳過程における機能が示唆されていたが、我々の結果は翻訳過程における機能がEF-Gと深く関係することを示している。 さらに、大腸菌4.5S RNAがもつ翻訳過程での機能について詳細に解析した。大腸菌4.5 SRNAはショ糖密度勾配遠心法による解析から、その大部分がリボソームとは異なるそれよりも軽い画分に見出された。 一方、大腸菌菌体をすでに翻訳過程における作用点が明らかになっている抗生物質で処理したところ、フシジン酸やバイオマイシンでのみ、4.5S RNAは70Sリボソーム分画に見出された。従って、4.5S RNAは、EF-Gによるトランスロケーション以前にリボソームと相互作用し、EF-Gのリボソームからの離脱までとどまっていることが示唆された。一方、4.5S RNAの欠損がEF-Gの局在性に与える影響について解析したところ、4.5S RNAの発現を押さえた場合、EF-Gは70Sリボソーム画分に検出された。この後、IPTGを添加し4.5S RNAの発現を再び、誘導すると、EF-Gはリボホームから解離した。一方、真正細菌SRP RNA中、22残基の高い保存領域についてデータベースとのホモロジーサーチを行ったところ23SrRNA上の+1069から10残基にわたって完全に一致していた。この10残基は、化学修飾法やUVクロスリンク法を用いた実験から、23SrRNA上のリボソーム結合領域の一つに含まれることがわかった。また、4.5S RNAの22残基を含む領域を化学合成し、EF-GとリボソームRNAと結合実験に添加したところ、競争的に阻害した。 以上の結果により、4.5S RNAの翻訳における機能は、トランスロケーション後、加水分解したGDP型EF-Gと結合することにより、リボソーム(リボソームRNA)かたの解離を促進していると考えられる。この結果は、先に我々が明らかにしたEF-G-4.5S RNAの結合がGDPの添加により約3倍増強されることともよく一致する。
|