本研究では分裂酵母の浸透圧応答と情報伝達機構を明らかにするために、高浸透圧感受性変異株を複数取得した。これらの中で最も浸透圧感受性の高い1株について、その感受性を相補する遺伝子を分裂酵母のDNAライブラリーより検索した。その結果、2種類のグリセロール-3ーリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(gpd1^+とgpd2^+)が取得できた。これら2つの遺伝子をそれぞれ欠失させ、その表現型を調べたところ、gpd1欠失変異株のみが高浸透圧感受性を示した。次にグリセロールの合成能を調べたところ、野性株では高浸透圧条件下でわグリセロールの合成量が上昇し、さらにそれが細胞内に高度に蓄積することが明らかとなった。一方、gpd1欠失変異株ではグリセロールの合成および細胞内蓄積が顕著に低下していた。さらにgpd1^+の転写は高浸透圧時に顕著に誘導されることも明らかになった。これらのことより、分裂酵母では高浸透圧時に、細胞内にグリセロールを多量に蓄積することが高浸透圧適応に重要であり、それは主にgpd1^+の転写のレベルでの調節によるものであることが明らかとなった。 一方、他の研究者らによって、MAPキナーゼのホモログであるWis1の欠失変異株が高浸透圧感受性になることが示唆されていた。我々は、取得したgpd1遺伝子を多コピーでWis1欠失変異株に導入すると浸透圧感受性が相補されることを見い出した。さらにWis1欠失変異株ではgpd1^+遺伝子の発現がわずかにしか認めらず、細胞内にグリセロールも蓄積されないことを明らかにした。以上の琴からgpd1^+遺伝子がWislが関与するMAPキナーゼカスケードの支配かにあると結論した。 現在、これまでに取得した他の高浸透圧感受性変異株についても、その感受性を相補する遺伝子のの検索を進めるとともに、新たに高浸透圧応答変異株の取得をすすめている。
|