原核ならびに真核微生物の遺伝子発現と環境応答機構という生命現象の基本的側面を理解することは、生命科学の基礎研究のみならず、分子生物学や農芸科学分野の発展にも直接結びつくと期待される重要な研究課題である。細胞にとっての様々な環境要因の内でも、特に浸透圧は、その重要性にもかかわらず最も理解の遅れている環境応答系の一つである。本研究は分裂酵母の浸透圧応答系をモデルとして環境応答の分子機構を解明しようとするものである。本研究期間中に得られた具体的成果を、以下に列挙する。 1、分裂酵母より種々の浸透圧感受性変異株を分離した。2、これらの変異株に浸透圧耐性を付与するものとして2種類のグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子(gpdl^+とgpd2^+)を取得した。gpdl^+欠失変異株のみが浸透圧感受性を示すことを明らかにした。3、gpdl^+遺伝子の発現は高浸透圧条件下でmRNAレベルで誘導されることを確認した。また、この遺伝子の倍地浸透圧に応答した転写開始点を決定した。 4、 gpdl^+遺伝子の発現は高浸透圧条件下で誘導されるが、それにはMAPキナーゼカスケード(Wisl-Styl系)が関与していることが明らかになりつつある。gpdl^+の発現様式をWislカスケードとの関わりについて解析したところ、その発現が確かにWislの支配下にあることを確認した。さらに、4、で決定した転写開始点の上流52から92塩基対の領域に、浸透圧に応答した発現調節に必要なシス配列が存在することを明らかにした。決定した調節領域にはWislカスケードの支配下にある転写因子Atflの結合部位と思われる配列が認められた。今後、Atfl^+も含めこのプロモーターの発現を直接支配する転写因子などの同定と遺伝子の取得を含めた解析を行う。5、一方、wisl^+とstyl^+の欠失変異株を同時に抑制できる多コピーサプレッサーの検索を行い、3種類の候補遺伝子を取得した。これらの遺伝子の浸透圧応答との関連、ならびに情報伝達ネットワークとの関わりについて、現在、研究を進めている。
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