細菌胞子発芽機構の解明に向けて、発芽の主要な生化学的事象である発芽時に活性化する細菌胞子ペプチドグリカン(胞子コルテックス)分解酵素を標的としてC.perfringens及びB.cereus胞子より酵素の精製を行い、酵素化学的性質を明らかにし、かつ遺伝子のクローニングを行った。両菌種より得られた主要なコルテックス分解酵素はアミダーゼ作用を有し、胞子形態を認識して胞子コルテックスを分解するが破壊したコルテックスや栄養細胞のペプチドグリカンには作用しない基質特異性を有していた。また、両酵素は酵素活性のpH・温度依存性や薬剤感受性において同一の性質を示した。この様な酵素化学的性質における類似性とは異なり、DNA配列から推定された一次構造に両酵素間で相同性はなく、それらに対する抗体も相互に認識しないなど蛋白質構造は異なっていた。C.perfringens由来のアミダーゼは、N-末端プレプロ領域、N-末端プロ領域、成熟体、C-末端プロ領域を持つ前駆体として合成され、N-末端プロ領域を持つ前駆体が胞子コルテックス層外縁局在し、N-末端プロ領域がプロセシングされて活性化される酵素であった。一方、B.cereus由来のアミダーゼはこのような活性化機構は存在せず、成熟型酵素としてコルテックス層外縁に存在していた。B.cereus酵素は典型的なシグナル配列を持つ分泌型酵素として生合成されるがC.perfringens酵素の一次構造にはシグナル配列は見出されなかった。この様に発芽始動酵素の活性化および局在部位への移行過程は菌種により著しく異なることが示唆された。現在、これらの酵素の活性化に先立つ発芽のトリガー反応に関与する蛋白質の検索を行っている。
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