アルギン酸は、マンヌロン酸とグルヌロン酸の2種類の糖から成る高粘性ヘテロ多糖である。慢性炎症疾患や異物挿入などに伴う感染では、感染細菌がアルギン酸のようなグリコカリックスを産生し、複雑なバイオフイルムが形成される。我が国にも、バイオフイルムの形成を伴う難治性細菌感染症(バイオフイルム感染症)が多く、慢性呼吸器疾患、心内膜炎、骨髄炎、尿路感染症、歯周病、皮膚感染症など医学全般に渡る。白人特有の遺伝病である嚢胞性腺維症の致死性も、緑膿菌アルギン酸による気道閉塞による、従って、難治性細菌感染症の効果的な治療においては、バイオフイルムを如何に処理するかが重要な問題となる。本研究の究極の目的は、細菌由来のアルギン酸低分子化酵素(アルギン酸リアーゼ)を利用した難治性細菌感染症治療法の開発である。そのため、本研究課題では、アルギン酸リアーゼの高次構造と反応機構の解析を目的とした。 アルギン酸リアーゼのX線結晶構造解析(プリセッション)を行い、結晶学的定数(格子定数、空間群)を決定した。アルギン酸リアーゼのX線結晶構造解析において最も大きな問題点は、重原子置換が期待通りに行かないことにある。水銀化合物(pCMB、メチル水銀、塩化水銀)と白金、金化合物について広範に検討したが、良好な置換体の調製は不可能であった。この基本的な問題点がタンパク質の結晶構造に起因するのか、それとも部分的なアミノ酸配列の特殊性によるのかを明らかにするため、今後、低分子量酵素を作出して検討しなければならない。一方、アルギン酸リアーゼの反応機構については、活性中心のアミノ酸及びその近傍の部分的構造を明らかにした。その結果は、平成8年度日本生物工学会大会及び日本農芸化学会大会などで発表した(論文作製中)。また、本酵素生産菌が極めて特殊な細胞表層構造(体腔)を有し、その解析により高分子物質取り込みに関する新たな機構を提出した(平成8年度日本生物工学会論文賞授賞)。
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