アルギン酸は、マンヌロン酸とグルヌロン酸の2種類の糖から成る高粘性へテロ多糖であり、様々な細菌感染症の原因物質となっている。慢性炎症疾患や異物挿入などに伴う感染では、緑膿菌がアルギン酸を産生し、複雑なバイオフイルムを形成する。いわゆるバイオフィルム感染症であり、難治性である。慢性呼吸器疾患、心内膜炎、骨髄炎、尿路感染症、歯周病、皮膚感染症など医学全般に渡る。白人特有の遺伝病である嚢胞性線維性の致死性も、緑膿菌アルギンによる気道閉塞による。従って、難治性細菌感染症の効果的な治療においては、バイオフイルムを如何に処理するかが重要な問題となる。本研究は、細菌由来のアルギン酸低分子化酵素(アルギン酸リアーゼ)を利用した難治性細菌感染症治療法の開発とアルギン酸リアーゼの高次構造と反応機構の解析を目的として行い、以下の成果を得た。 (1)アルギン酸リアーゼのX線結晶構造解析(プリセッション)を行い、結晶学的定数(格子定数、空間群)を決定した。しかし、X線結晶構造解析において最も大きな問題点は、重原子置換が期待通りに行かないことにあった。水銀化合物(pCMB、メチル水銀、塩化水銀)と白金、金化合物について広範に検討したが、良好な置換体の調製は不可能であった。(2)アルギン酸リアーゼの反応機構については、活性中心のアミノ酸及びその近傍の部分的構造を明らかにした。(3)本酵素をポリエチレングリコールで化学修飾することにより、無(低)抗原性酵素を作製し、難治性細菌感染症治療に応用できることを明らかにした。(4)完全無抗原性酵素を調製するため、低分子量酵素断片を得た。(5)本酵素生産菌は、微生物史上で初めて見出された体腔(細胞表層上の穴構造)を有する細菌であることを明らかにした。(5)体腔欠損変異株の機能解析、並びに、体腔の微細(電子顕微鏡)構造と高分子資化の関係を解析し、高分子物質取り込みに関する新たな機構を提出した(平成8年度日本生物工学会論文賞受賞)。
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