研究概要 |
土壌から分離した放線菌No.560株が産生する溶血因子S-Hemolysinを電気泳動的に均一に精製し、諸性質を検討した。S-Hemolysinは102残基のアミノ酸からなる分子量約10,000の糖蛋白質で、ホスファチジルコリンをホスホリルコリンとジグリセライドに分解するホスホリパーゼC(PLC)と考えられた。しかし、その基質特異性は既存のPLCとは異なり、リゾホスファチジルエタノールアミンを最も強く分解し、次いで、スフィンゴミエリン>ホスファチジルエタノールアミン>ホスファチジルコリンの順で分解し、PLCとスフィンゴミエリナーゼの両酵素の活性を合わせ持つ特徴を示した。また、S-Hemolysinは人赤血球に対して強い溶血作用(Hot-Cold型溶血)を示したが、他種の赤血球は溶血しなかった。また、No.560株がS-Hemolysinと同時にホスホリパーゼC活性を阻害する高分子の阻害剤(S-PLI)と低分子の阻害剤(SHI)を産生していることを見出した。単離したS-PLIは609残基のアミノ酸と19残基のグルコースからなる分子量65,000の糖蛋白質で、溶血活性を示さないセレウス菌由来のPLCやホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(PI-PLC)を強く阻害するが、溶血活性を示すS-Hemolysinやスフィンゴミエリナーゼを全く阻害しなかった。一方、単離したSHIは塩基性の低分子物質で、溶血活性を示すS-Hemolysinやスフィンゴミエリナーゼを特異的に阻害した。 放線菌の培養ろ液から単離したS-Hemolysinは、精製が容易な分子量1万のPLCであり、リン脂質分解活性と溶血活性に基質特異性が見られた。また、溶血活性の有無でPLCを認識し、その酵素活性を阻害する2種類の阻害剤を見出した。このように特性を持つPLCや阻害剤は溶血活性とリン脂質分解活性の構造に関する研究に充分に役立つと考えられる。
|