研究概要 |
安価なマレイン酸をD-立体選択的に転換する新規な微生物ヒドロ・リアーゼを天然界に検索した。強いマレートヒドラターゼを有する細菌Arthrobacter sp.を土壌から分離し、休止菌体反応によるマレイン酸からDーリンゴ酸の製造検討を行った。マレイン酸を唯一の炭素源として土壌より分離したマレイン酸費化菌440株から一次スクリーニングにおいてリンゴ酸生産能が強く、D体の比率が高いと思われる菌を選択した。形態的.科学分類的性状から、本菌をArthrobacter sp.と同定した。マレイン酸から生産されるリンゴ酸の光学純度は100%D型であった。本菌は培養条件、反応条件を検討することにより活性(反応、初速度)は約50倍に上昇した。得られた高活性菌体を反応に供したところ、20時間で87g/literのDーリンゴ酸の蓄積を確認した。変換率は86.5%、モル収率は72%であった。次に、水和反応を触媒する酵素を均一状態まで精製し、酵素化学的諸性質を明らかにした。本菌株のマレートヒドラターゼを無細胞抽出液から数種のクロマトグラフィーにより精製した。精製酵素の分子量は90,000であり58,000と28,000のサブユニットよりなることが判明した。本酵素は、類似の水和反応を触媒するアコニターゼやシトラコナーゼと同様にFe^<2+>とL-システインの存在下で活性化された。精製酵素の至適pHは7.5、至適温度は45℃であった。本酵素の基質特異性について調べた結果、クロロマレイン酸、ブロモマレイン酸、シトラコン酸と反応した。生産物はそれぞれ(2S,3S)-3-クロロリンゴ酸、(2S,3S)-3-ブロモリンゴ酸、R-(-)-シトラマル酸であった。また、本酵素の活性はマレイン酸異性体のフマル酸による阻害はなかったが、L(+)、(D)-(-)-,meso-酒石酸、Lリンゴ酸、オキサロ酢酸、アセチレンジカルボン酸など、いくつかのジカルボン酸により阻害された。
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