研究概要 |
プロリン残基によるタンパク質耐熱化の検証----中温菌Bacillus cereus ATCC7064のオリゴ-1,6-グルコシダーゼ遺伝子上に、プロリン残基への置換導入を累積的に行った。すでに9箇所の変異導入を行い、構造特異性を保った加算性をもつことを示している。さらに3箇所(Lys457(βターン、Mut-10),Thr440(可動ループ、Mut-11),Ile403(αヘリックス、Mut-12))をMut-9に引き続いて行った。これらの変異酵素は、Mut-9までの変異酵素と同じく、酵素機能と構造において顕著な損傷を受けなかった。そしてβターン(Mut-10)とβヘリックス(Mut-12)での置換導入は、耐熱性の向上をもたらし、可動ループ(Mut-11)での置換導入は、逆に耐熱性の低下を引き起こした。この結果は、これまでの結果と完全に一致し、耐熱性向上に有利に働くプロリン残基の、構造特異性があることを示すものであった。 熱安定性の評価についての考察----活性を指標とした不可逆失活に対し、可逆性の中での構造変性の追究を行った。まず塩酸グアニジン処理後の蛍光強度の変化を測定することによりB.cereus由来の野生型酵素と、Mut-10からMut-12までの変異酵素について可逆変性を調べてみた。pH.7.0、25°Cで1時間処理をすることにより、変性状態は安定化したが、可逆平衡を示さず、いずれの酵素も不可逆変性を起こす事が判った。不可逆な塩酸グアニジン耐性においては、耐熱性評価と同様な変異酵素と野生型酵素の耐性の違いが観察された。好熱菌B.thermoglucosidasius KP1006由来の同酵素タンパク質について、同様の変性実験を行うと、この酵素タンパク質は、安定な可逆性を示し、塩酸グアニジンの濃度も、B.cereu由来の酵素タンパク質に比べ高い耐性を示すことが判った。次に熱量測定を用いた可逆変性による耐熱性の評価を行った。熱量測定では、塩酸グアニジン変性で確認できなかった可逆性を、B.cereus由来の野生型酵素及び変異酵素の両方において認めることができた。Tm(50%変性温度)値は野生型49.3°C、Mut-1が50.6°C、Mut-4が52.9°C、Mut-7が53.1°C、Mut-9が54.3°C、Mut-12が54.7°Cで、活性に伴う50%失活温度からいずれも4.6〜5.0°Cシフト上昇していた。しかし両者における傾向は、全く同じものであり、プロリン残基による耐熱性の上昇は、不可逆、可逆の両方において確認することができた。
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