本研究では、シアン耐性呼吸の誘導過程の分子機構を中心に研究を展開した。 1)ミトコンドリアのQサイクルのQi部位の電子伝達を特異的に阻害するAntimycin Aの他に、Qi部位及びQo部位の既知のいずれの阻害剤とも異なる機作で強力に電子伝達を遮断する抗生物質Ascochlorinもシアン耐性呼吸の誘導作用を示すことがわかった。誘導剤としてAntimycin A_3、Ascochlorin、Dithiothreitolを用い、誘導過程における種々の試薬の効果を検討した。その結果、Alternative oxidase遺伝子発現のためのシグナリングに細胞内カルシウムイオン、細胞内の特定のSH基とチオールのレドックス環境、そしてタンパク質のリン酸化・脱リン酸化が関与している可能性が強く示唆された。 2)Alternative oxidaseタンパク質をコードするゲノムDNAをクローン化し、そのヌクレオチド配列を決定した。この上流に炭素源による発現調節に関わるシス配列と思われる配列を同定した。 3)恐ろしい風土病「アフリカ睡眠病」の病原体である原虫Trypanosoma bruceiは、哺乳動物血流中においてlong slender form の形態で急激に増殖し宿主を死に至らしめる。この形態の原虫のミトコンドリアでは、植物界で広く見い出されるAlternative oxidaseが唯一の末端酸化酵素としてエネルギー産生を支えている。不完全菌Ascochyta visiaeが産生する抗生物質Ascofuranoneが、このAlternative oxidaseをきわめて強力かつ特異的に阻害することを明らかにした。さらに、グリセロールとの同時投与により、in vitro及びin vivoの原虫増殖を強力に阻止することも確認した。
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