細胞周期とは、遺伝子の本体であるDNAを合成して2つの娘細胞へ分配するという一連の過程をさす。最近、細胞周期の調節機構が分子レベルで解明されるにしたがって、その制御機構に異常が生じ無秩序に増殖する状態が癌であると理解されるようになった。細胞周期を阻害する薬剤としてタキソ-ルやカンプトテシンが発見され、新しい抗癌剤として期待されている。そこで、我々は微生物代謝産物より新しい細胞周期阻害剤の探索を行った。 バイオアッセイ系には、マウス乳癌FM3A細胞から樹立したp34^<cdc2>キナーゼ温度感受性変異株tsFT210細胞を用いた。本細胞は、39℃でcdc2キナーゼの酵素活性が失活するためにG2期で細胞周期の進行を停止し、32°Cに戻すと再び細胞周期の進行を開始した。この条件下で、微生物培養サンプルを細胞培養液に添加し、細胞周期の停止作用をフローサイトメーターで測定した。スクリーニングの結果、Penicillium sp BM923株が生産するアセトフタリジンが細胞周期のM期で阻害することを見出した。アセトフタリジンは水溶液中で不安定であるため、まず不活性前駆体のヒドロキシメレインを単離し、それを酸性下加熱処理(変換)してアセトフタリジンに導いた。さらに糸状菌Aspergillus fumigatusが、新規なジケトピペラジン系化合物(トリプロスタチン、スピロトリプロスタチン、シクロトリプロスタチンなど)を生産することを明らかにした。トリプロスタチンA、Bはそれぞれ50μg/ml、12.5μg/mlで細胞周期を完全にM期で停止させた。さらにトリプロスタチンは、in vitro系でチューブリンの重合を阻害することを明らかにした。
|