本研究の目的は、動植物の細胞壁に広く存在する糖グリセリドの絶対配置を、極微量に決定する方法を確立する事である。これまで、旋光度や円偏向二色性スペクトル法などが報告されているが、天然に存在する糖グリセリドは微量であり、しかも、スペクトル分析の試料とするには、精密な精製、並びに絶対配置既知のモデル化合物が必要であるなどの問題が指摘されていた。先に、我々は、光学活性アルコール、アミンの絶対配置並びに光学純度を微量の試料で決定するための蛍光性不斉誘導体化試薬、(S)-TBMBカルボン酸を開発する事に成功している。本研究では、糖グリセリドのグリセロール部位の絶対配置を本試薬で決定する方法の開発を試みた。以下にその結果と成果をまとめた。 1)グルコースと市販の(S)-グリシドールから、絶対配置既知のグルコシルグリセリドを立体選択的に合成する方法を確立し、これをモデル化合物に用いて分析法の開発を試みた。 2)糖グリセリドのグリセロール部位を立体配置保持のままキラルグリセロール誘導体に導く方法を検討し、アシル基のアルカリ加水分解、完全メチル化、グリコシル結合の酸加水分解についてを含むスキームを考案し、各段階における最適条件を設定する事ができた。 3)上述法により得られた光学活性グリセロールを(S)-TBMBカルボン酸によりラベル化し得られるジアステレマ-を順相系HPLC条件によって相互分離する条件を設定した。 4)モデル糖グリセリドを用いて、(2)と(3)の操作法をさらに最適化し、目的とする糖グリセリド分析法を確立する事に成功した(別紙論文1、2)。 本分析法は、0.05ピコモル量の検出感度で分析でき、これにより、極微量の試料で確実に、糖グリセリドグリセロールの絶対配置の分析が可能となった。さらに、糖部位の絶対配置を決定する方法も同時に確立し(文献3)、これにより、糖グリセリドん分子全体の絶対構造解析法が確立された事になる。
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