研究概要 |
申請者のグループは植物病原菌を植物毒をはじめとする植物生理活性物質の宝庫とみなし,マメ科植物病原菌Neocosmospora vasinfecta NHL2298株,小麦の斑点病菌Cochliobolus spicifer D-5株,さらにはオオムギの斑点病菌Bipolaris sorokiniana OB-25-1株を中心に,それら代謝産物について生合成をも含めた化学的研究を行なってきている。本研究では,これらの代謝産物の生合成経路を確立し,その知見に基づいて植物毒生合成経路の特異的阻害剤を開発することを究極の目的とした。そのため平成8年度は特異的阻害剤のスクリーニング法開発に向けて,植物毒素生合成の無細胞系の構築のための基礎的データを得ることにした。先ず,B.sorokinianaの生産する植物毒素sorokinianin生合成におけるセスキテルペンとC3単位の付加反応に着目し,C3単位とセスキテルペン部分の生合成起源の解明を目指した。これまでの研究において,申請者のグループはsorokinianinがセスキテルペンのprehelminthosporolとコハク酸フマル酸などのクレブス回路の構成酸を生合成起源に持つことを置換培養の手法を用いて推定している。本年度は安定同位体標識した酢酸とコハク酸の取り込み実験を行った。酢酸の取り込み実験においては,sorokinianinのセスキテルペン部分の標識パターンは既にhelminthosporal等で報告されているメバロン酸に由来するテルペンの生合成に合致した。また,酢酸の標識はC3単位部分にも取り込まれることが判明した。一方,コハク酸の取り込み実験においては,コハク酸の標識はsorokinianinのC3単位部分にだけ取り込まれ,以上のことから,sorokinianinがセスキテルペンのprehelminthosporolとコハク酸フマル酸などのクレブス回路の構成酸を生合成起源に持つことが証明された。今後は,この知見を基礎に無細胞系の構築を目指したい。
|