研究概要 |
寄生植物のうち、とくに根に寄生する植物(なかでもハマウツボ属、ストリガ属)は地中海沿岸、中東、アメリカなどにおいて農作物に甚大な被害を与えることが知られている。これらは農耕地などの自然条件下で、宿主の分泌する発芽誘導物質によって初めて発芽し、やがて吸器を形成して宿主に付着し、宿主の栄養分を搾取する。本研究は本害草の防除を究極の目的として,日本に自生するヤセウツボの発芽誘導の仕組みを化学的生物学的に明かにすることを目的とした。以下の3点の結果が得られた。 1) アカクローバー(宿主)が分泌するヤセウツボ発芽誘導物質には3種類あることを明らかにし、そのうち二種類の構造を決定した。一つは既知物質のalectrolと同定した。もう1つの成分は新物質(orobanchol)であり、その構造を決定した。 2) 誘導物質の分泌は、肥料条件によって著しく左右されることが明らかになった硝酸体チッソは誘導物質の生産に必須であるが、アンモニア体窒素は有害であることがわかった。一方リン酸は低濃度で阻害的であり、カリウムは無関係であった。 3) 発芽誘導物質の生産と宿主性には正の相関があることを明らかにした。ヤセウツボの宿主として認められているニンジンとアカクローバーは生産能が高かった。トマト、ダイズ、エンドウはニンジンに匹敵する高い生産能を示した。これらは、一般に寄生植物の宿主に成りやすいことがしられていることから、発芽誘導物質の生産と宿主性とには相関があると考えられた。またヒマワリ、キュウリ、タマネギ、バジルには中程度の生産が認められ、アブラナ科のダイコン、クレスおよびイネ科のイネ(コシヒカリ、短銀坊主)とトウモロコシは無生産ないしはきわめて微量の生産しか認められなかった。
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