研究概要 |
本研究の目的の一つは、E. gracilis Z(植物細胞モデル)およびE. gracilis SMZ(動物細胞モデル)の活性酵素惹起ストレスに対する抵抗性に差があるか、もしあればその差は何によるかを、含硫糖脂質SQDGの関与との関連から明らかにしようとするものであった。初めに、光照射下ならびに暗黒下で培養したZ株とSMZ株のUV-Bに対する障害について調べた。障害の指標の一つとして細胞内過酸化脂質を、蛍光プローブを用いて、微弱蛍光法により測定しところ、光照射下葉緑体を有するZ株(Z-LD)がUV-B照射による脂質過酸化を抑制した。チラコイド膜に局在するSQDGに注目し、リポソーム系での脂質過酸化抑制効果の有無を調べたところ、SQDGはAAPH惹起脂質過酸化を抑制したが、UV-B惹起脂質過酸化は、逆に促進した。SQDG単体での抗酸化能はラジカル捕捉効果によるが、Z(Z-LD)細胞内では他の抗酸化物質との有機的関連のもとに抗酸化効果を示すものと考えられる。Z株とSMZ株を2,000〜10,000Luxの光照射条件下および暗黒条件下で培養後、細胞に紫外線Bを一定時間照射し、8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン(8-OH-dG)生成量を比較した結果、全ての細胞でUV-B暴露時間に比例して8-OH-dG量は増加したが、Z-LD型での生成量が最も低く、さらにZ-LD型でUV-B惹起脂質過酸化の抑制が認められた。また、すべての細胞においてUV-B暴露前に生成している8-OH-dG量は^3dG残基当たり9残基でヒト細胞およびラット臓器に存在する8-OH-dG量は10^5dG残基当たり数〜数十残基であるという報告と比べEuglena gracilisでは圧倒的に高い存在比だった。現在、老化寿命の観点からSOD活性との関連の下に更に詳細な検討を行っている。本研究成果を総合してSQDGの役割はラジカル惹起過酸化に対してはラジカル捕捉効果、紫外線B照射での一重項酵素による細胞障害に対しては、自らが優先的に過酸化されてAsA-Pxにより処理されることにより、他の生体脂質成分を保護するという抗酸化システム仮説を提唱した。
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