本研究では、食環境の変動により、生体が異常な状況におちいった場合、血液、脳関門の機能が変化し、通常では通過しない食物成分が脳内に輸送され脳機能に影響を及ぼすといった、いわば食環境に由来する複合要因が脳に与える影響をあきらかにすることを目的としており、以下のことが検討された。 Mg欠乏マウスは、2週間位になるとけいれん発作を起こし、死亡するものもでた。Mg欠乏では、Mgの各臓器への蓄積を観たICP分析による臓器中濃度は、脳でも減少したが、各臓器への移行を観たトレーサー実験では、脳において変化が認められなかった。 Zn欠乏ラットの生体内Zn濃度は、飼育2週間目では、骨で有意に減少し、4週間目では骨、血液で著減するにもかかわらず、脳では濃度や機能での異常がみとめられず、8週間目で著減し細胞間隙のACh濃度が増加することが分かった。 アスコルビン酸を体内で合成できるラットでも、Vを長期にわたって投与した場合は、脳においてのみ、アスコルビン酸濃度が著減した。 以上のように、微量元素の欠乏による血液・脳関門を介する脳機能への影響の及ぼし方は、一様でないことが明らかになった。すなわち、生体内の各臓器とほぼ同時期に脳内の濃度が減少しても、その移行には変化が生じない場合や、他臓器中の濃度が枯渇してからはじめて脳内の濃度が減少し、そののち機能変化が生じる場合が示された。また、過剰の場合は、脳においてのみその影響が認められる場合が示された。今後、食環境に由来する微量元素の変動が、脳に与える影響を明らかにしてゆくためには、脳と他臓器間の挙動を充分に考慮した研究が期待される。
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