β-カロチンの生体内抗酸化作用をみるため、9週令ddy系マウスにβ-カロチン(0.6%または3.0%)を含む食餌を1週間与えた。β-カロチンの投与は、血漿、赤血球膜、肝臓、肺のβ-カロチン量を有意に増加させると共に、赤血球膜の過酸化リン脂質(ホスファチジルコリンハイドロパーオキサイドとホスファチジルエタノールアミンハイドロパーオキサイド)量をβ-カロチンの摂取量に応じて有意に減少させたが、血漿や肝臓など他の組織では過酸化リン脂質量は減少しなかった。またβ-カロチンの投与により、赤血球膜と他の組織でβ-カロチンの異性体の組成に差が認められ、過酸化リン脂質の減少が認められた赤血球では、他の組織よりもシス型のβ-カロチンが比較的多く分布していたことから、β-カロチンが赤血球膜の主要な抗酸化因子であることが推察された。そこで、β-カロチンの赤血球膜での臓器特異的な抗酸化作用の発現機構を知るため、化学発光検出器を備えたHPLCを用いてヒト赤血球中に存在するβ-カロチン過酸化物の測定を試みた。その結果、ヒト赤血球ゴ-スト中に数種のβ-カロチン過酸化物が存在することを認めた。本過酸化物は、HPLCのクロマトグラムから、β-カロチンのペルオキシラジカルや一重項酸素との反応で生じる過酸化物と同一であることが明らかとなった。またスペクトル分析から、本過酸化物は既に知られているβ-カロチン過酸化物(エポキシドやカロテナ-ル)とは異なるエンドパーオキシドであると推定した。以上より、β-カロチンは、赤血球膜のリン脂質二重層内において、自らが活性酸素を捕捉して膜リン脂質よりも優先的に酸化されることで抗酸化作用を発現しているものと思われた。
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