昨年度の研究により、水中分散系における不飽和脂肪酸の酸化反応の受け易さが、脂質を分散するのに用いる乳化剤の種類によって変化する事が示された。その点について、今年度はさらに詳細な検討を加えた、その結果、陽イオン性、陰イオン性界面活性剤に比べて、非イオン性界面活性剤を用いて乳化を行った場合の方が、酸化反応が顕著に抑制されることが明らかとなった。一方、タンパク質を乳化剤として用いた場合には、界面活性剤の場合とは異なった反応様式で酸化反応が進行することが示された。また脂肪酸中の2重結合の位置と、その脂肪酸の酸化反応の受け易さとの間には明確な関連性は認められなかった。以上の結果、脂質の酸化のされやすさは、脂質分子自体のコンフォメーションというより、界面に存在するタンパク質や界面活性剤と脂質分子の相互作用によって決定されることが示唆された。そこで、リポキシゲナーゼを用いて、界面上におけるタンパク質、界面活性剤、脂質の存在状態と相互作用について検討を加えた。その結果、タンパク質は油水界面において2次元的なネットワーク構造を形成するが、リポキシゲナーゼはそのネットワーク中に存在するスペースより脂質分子を引き出し、反応に利用出来ることが明らかとなった。このことは、タンパク質が界面に吸着しても、全ての脂質分子を束縛することはできず、ネットワーク中のスペースに存在する脂質分子はパルク中の分子と同様のコンフォメーション、高い移動度を持っていることを示している。それに対し、界面活性剤が吸着している場合には、界面活性剤が自由に界面上を拡散してゆくため、脂質分子が全体にわたって束縛を受け、酸化反応を受けにくくなっていることが明らかとなった。
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