1.栄養条件の異なる2カ所(尾根筋・沢筋の放牧牛の休憩場所)に生育しているクリの母樹から種子を採取し、種子の窒素含有量をケルダール法で定量した。個体間の種子窒素含有量に有意な差はみらず、また、種子サイズ間でも差は見られなかった。 2.安定同位体窒素(^<15>N)標識の肥料を一定量施用したポットに、種子サイズの異なる(大・中・小)クリの種子を播き、発芽60日後に回収し、同化・非同化器官別に種子貯蔵窒素(^<14>N)ならびに吸収窒素(^<15>N)の利用率について分析した。葉の土壌由来窒素濃度は新葉ほど高く、古い葉ほど低かった。その濃度には種子サイズによる差はみられなかった。他の傾向についは、温室での高温障害によるサンプルサイズの減少によって有意な傾向はみられなかった。 3.ミズナラの葉の着生部位による栄養成分の違いと食害率の関係:北海道北部でナミスジフユナミシャクが大発生し、ミズナラやカンバ類の葉が食害された。食害率は樹冠葉で平均75%であったが、萌芽枝では平均95%であった。この食害の違いを葉の着生部による栄養成分や、防御物質の違いから検証した。萌芽枝の葉と樹冠部外側の葉では、炭素含量では違いがなかった。しかし、窒素含量では、萌芽枝の平均2.68%で、樹冠部外側の平均は3.74%と高く、樹冠部外側で光合成が盛んであると考えられる。これに対して、タンニン含量も樹冠部外側で高く平均35.6mg/gで、萌芽枝では平均13.5mg/gにすぎなかった。以上の結果から、ミズナラは光合成や他の樹木個体との競合で重要な樹冠部外側の葉に防御物質をより多く配分しており、食植生昆虫の大発生でも萌芽枝を犠牲にして、樹冠部外側の葉を防御することに成功していると考えられる。
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