エゾマツとアカエゾマツとの種間雑種について、(1)天然林における雑種の動態、(2)人工交配家系における形質遺伝、の二点の解明を目的として形質遺伝に関する研究を行った。天然林における雑種の形成過程を解明するために、東京大学北海道演習林の天然林において、1995年6月に新たに発見された雑種2個体を中心に40m×40mの調査区を設置し、出現樹種、直径、樹高、立木位置の測定を行った。雑種の生育立地は湿性立地に成立するアカエゾマツ純林の林縁で、トドマツとエゾマツを中心とする針広混交林との境界に位置していた。雑種および両親種の葉の断面についてみると、アカエゾマツは菱形、エゾマツは扁平型、雑種は中間型を示した。雑種の表現型の遺伝様式を捉えるために、人工交配家系について、葉横断面の形状、生物季節現象、エゾマツカサアブラムシ等による動物害耐性などについても調査を行った。エゾマツとアカエゾマツとでは開芽時期が異なり、開芽期は開花期に影響を与えることから、雑種形成メカニズムの解明にとって重要な特性である。人工交配家系について開葉期の遺伝構造を調べた結果、エゾマツの開葉は一斉に起こるのに対し、アカエゾマツでは種内に較差がみられ、雑種は両樹種の中間を示した。エゾマツにはエゾマツカサアブラの被害がみられるのに対し、アカエゾマツでは無被害であった。雑種については、被害個体数および被害度に関して中間を呈した。被害は樹高の高い個体で顕著に認められた。さらに、天然林の個体について、生葉からDNAを抽出し、RAPD法を用いてDNA分析を行った。いくつかのプライマーが種特異的プライマーであると推定され、種間雑種推定に有効であると考えられた。
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