本年度はマルチメディア時代の色彩再現性に影響する紙の側の因子を表面物性の解析を中心に、また人間の感性工学的認識の一部として視覚による色彩認識および触覚による摩擦感に関する問題の検討を行った。実績の要点をまとめると次の通りである。 1.紙の表面物性の内、インクジェットなどの情報記録方式に関連した色彩再現の問題として、備品として購入した高品位マイクロスコープにより再現画像の解析を行い、表面特性と画像品質の関係について検討を行った。インクジェット方式の画像再現法では紙の特性としては表面平滑性および液体吸収性が影響し、さらに色彩ドットによる画像再現方式が人間の視覚に大きく影響することが分かった。 2.塗工紙に於いては原紙の表面物性および塗工層のインキとの相互作用が画像再現に大きく影響するが、塗工層における顔料・ラテックス・澱粉などの組成分間での相互作用及び均一な塗工層の形成の有無が画像品質に大きく影響することが分かった。また色彩の評価では可視光領域での分光分布およびスキャナによる色分解による評価を行ったところ、色彩計測によりある程度まで人間の色彩認識をシミュレート可能なことが判明した。 3.紙の感性工学的な評価の一環として木材パルプにポリエステルなどの合成繊維を混抄した紙を調製し、摩擦感テスターにより評価したところ、天然繊維と合成繊維の混抄により触覚が幅広く考えられることが分かった。更に和紙と洋紙の色彩の感性工学的評価として透過光の分光学的評価を行ったところ、光の散乱と併せて色彩の三要素である色相・彩度・明度が大きく関与していることが分かった。 以上の物性評価および感性工学的評価を通して、全体的にはほぼ当初の計画を達成したといえる。
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