無菌ハリエンジュ幼植物体の茎外植片から誘導したカルスを用いて懸濁培養を行い、培養液中に分泌されるリグニン前駆物質の検索と生成されたリグニン様物質の理化学的性質を調べた。 培養ろ液の酸性画分を抽出し、HPLCを用いて分析した結果、フェルラ酸の存在しか確認出来なかった。 培養ろ液中に生成して来る沈澱物(リグニン様物質)の経時的変化を調べた結果、P培地(二次的代謝系を促進する培地)では10日目から15日目にかけて沈澱物生成量は急激に増大し、それ以降は緩やかに増大することが分かった。一方、C培地(一次代謝系が旺盛な培地)は15日目まで緩やかに増大するが、20日目にはわずかに減少し、全体的には大きな変化はみられなかった。両培地で40日間培養したとき生成された沈澱物からMWLを調製し、その理化学的性質を比較検討した。C-40ppt MWLはUV吸収スペクトルの極大値は282nmに表れ、IR吸収スペクトルはC-カルスMWLのそれに類似していた。ニトロベンゼン酸化分解生成物の収率およびゲルろ過による分子量分布曲線のパターンはほとんど同じであった。これらの結果から判断して、C-40pptMWLはC-カルスMWLの構造に類似していて、共にリグニンの構成単位の割合が針葉樹型リグニンに近いことが示された。他方、P-40pptMWLはUV吸収スペクトルの極大値は277nmに表れ、IR吸収スペクトルはC-カルスMWLや材MWLのそれとも異なり、ニトロベンゼン酸化分解生成物の収率は低いが、H/V比は高く、分子量分布曲線は高分子量領域の多いパターンを示した。これらの結果から、P-40pptMWLはp-ヒドロキシフェニル核を有する構造単位の割合が可なり多いこと、縮合型リグニンの割合が大きいこと、より高分子化されていることが分かり、C-40pptMWLよりさらに複雑な構造を有することが示された。
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