本研究の結果、リグナン生合成の立体化学的機構は、当初の予想を遙かに超えて、樹種によって極めて多様であることが明かとなった。 本研究を開始する以前に、研究代表者らの研究を含め、レンギョウ(Forsythia)属植物のリグナン生合成酵素系について、既にかなり知見が蓄積していた。しかし、レンギョウリグナンとは反対のエナンチオマーのリグナンを産生する植物のリグナン生合成機構に関しては、ほとんど不明であった。そこで、本研究では、まずこの点の解明について検討した。 すなわちまず、文献検索を行い、各植物によって産生されるリグナンのエナンチオマーの旋光度の符号を詳細に調査した。その結果、多数の植物で、レンギョウと反対のエナンチオマーのリグナンが産生されていることが判明した。そこで、これらのリグナンの生合成の立体化学制御機構を解明するため、ゴボウ(Arctiumlappa)、ガンピ(Wikstroemia)属およびコミカンソウ(Phyllanthus)属植物を用い、リグナンの検索、単離されたリグナンのエナンチオマー組成の決定、代謝経路の決定、及び、リグナン合成酵素の検出を行った。その結果、(1)優先的に生成するエナンチオマーおよびエナンチオマー過剰率が植物によって異なること、および(2)光学的に純粋なリグナンが生成する生合成経路上の段階が植物によって異なることが明かとなった。また、(3)レンギョウ属植物の酵素のよって生成するものとは反対のエナンチオマーである(+)-セコイソラリシレジノールをエナンチオ選択的に生成させる酵素活性を初めてゴボウから検出した。そして、リグナン生合成の立体化学機構は、従来の予想を遙かに超えて、樹種によって極めて多様であることが結論づけられた。
|