将来、地球規模の温暖化や気候の変動が海洋生物にどのような影響をもたらすのか。親潮海流と対馬海流が混合する北海道南部沿岸は、良質のマコンブLaminaria japonicaが生育しているが近年減少傾向にあり、着生と生育に競争関係にあるとみられる他のコンブ類の分布が広がっている。この沿岸域の褐藻コンブ科3種、マコンブ、ガゴメ Kjellmaniella crassifolia、スジメ Costaria costataの幼胞子体について、様々な水温変化がそれらの成長、形態形成におよぼす影響を調べた。 温度可変型インキュベータにおいて、5、10、15、18、22、25℃の各々一定水温と1、2、3、6、12、24時間上記の水温で処理した変動水温が上記3種の生長や形態に及ぼす影響を連続的に記録し、画像スキャナーシステムによってデジタル化した資料を解析して比較検討を行い、水温変動に対する各種の特性を明らかにした。その概要は以下に記述する。 1.一定水温条件では、マコンブ、ガゴメ、スジメの3種は15℃以下の水温で約90%以上の生存率を示した。30%以下の生存率となる水温はスジメとマコンブで22℃から、ガゴメでは18℃からであり、高水温に対する幼胞子の耐性は、スジメ>マコンブ>ガゴメの順となる。3種とも10℃で最も生長がよく、それよりも低水温、高水温側では生長が穏やかとなり、特に高水温側22℃では生長が著しく劣る。葉の形態について、ガゴメとマコンブは高水温で幅広で丸型に、低水温で細長形になる。スジメは低水温で先端部が幾分幅広の細長型、高水温で線状を呈し前2種とは異なる。コンブ類の幼胞子体は水温変化に対し種によってほぼ一定の形態変化を示すことが推察された。 2.変動水温処理実験(温度/時間)では、25℃/24時間処理のスジメ、25℃/3時間〜6時間と22℃/6時間〜24時間のガゴメ、25℃/6時間〜12時間、22℃12時間〜24時間、18℃/24時間のマコンブでは、その後、体細胞分裂がほとんど生じず、著しい生長停滞となった。また、25℃/6時間〜12時間処理のガゴメ、25℃/6時間〜12時間、22℃/12時間〜24時間、18℃/24時間のマコンブの一部の個体において、葉縁辺部が数カ所で著しくくびれる特異な形態の胞子体が出現し、高水温処理後に葉状部細胞の分裂が再開して回復生長することを確かめた。
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