研究は当初の実施計画どおり、ほぼ順調に進行した。1)イトヨについては、20数年前に蒸留部に砂防堰堤が建設された錦多峰川において、生活史調査とアロザイム解析による集団遺伝学的解析を行った。その結果、加硫域には遡河回遊型集団が生息するのに対し、堰堤の上流部では陸封された遡河型集団が生活史を変化させ、河川型集団が形成されたことが確認された。この河川型集団は、祖先にあたる遡河型集団と比較して、成熟サイズが小型化し、結果としてクラッチサイズを減少させたが、反面繁殖期間を長期化させることによって、淡水環境に適応した生活史を進化させたと推測される。また、遺伝的集団解析によって、河川型集団は遺伝子型頻度において遡河型集団と差異はなく、この生活2型は同一繁殖集団を維持していることが示された。一方、2)アメマスに関しては、礼文島の起登臼川で調査した。その結果、この川の中流域に20年ほど前に建設された落差工の上流域には、遡河型が隔離され、小型で成熟する河川型の雌雄集団が形成されていることが判明した。この落差工を境にした、下流域の遡河型と、河川型集団の遺伝的異同については、ミニサテライトDNAを用いて現在解析中である。しかし、これまでの解析結果では、河川型集団の遺伝的変異性はきわめて小さく、この集団が過去にボトルネックを被った経歴を持つようだという、興味深い示唆が得られている。
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