研究概要 |
異質4倍性魚類を起源として進化したとされるフナ属魚類は遺伝標識となるアイソザイムの遺伝様式が複雑で、種分化や種内分化に関する総合的な遺伝学的解析が行われていない魚類である。従って、フナ属魚類の遺伝学的研究の進展には交配実験によるフナ属魚類の遺伝標識の遺伝様式の解明をしなくてはならない。本研究はフナ属魚類の遺伝学的解析の基礎として、キンブナおよびキンギョを材料として交配実験によりアイソザイム、核内DNAの遺伝様式を確証し、それらの遺伝標識を用いて野生のキンブナとキンギョの諸品種の遺伝的変異性および類縁関係をとらえることによってフナ属魚類の遺伝学的解析の基本を確立することを目的とした。本年度の結果の要約は以下に示したとおりである。(1)キンブナ天然集団から人為的に作成した雌雄一対交配の親(雌雄)と子を対象として、15酵素についてデンプンゲル電気泳動法によるアイソザイムの出現パターンをとらえ、親子関係からアイソザイムの遺伝様式を推定することができ、金魚と同じ遺伝様式が推定できた。た。しかし金魚と同様に一部の酵素では遺伝様式の確定ができなかった。(2)同上の標本を対象として血液よりtotal DNAを抽出し、RAPD-PCR法によってDNAの変異を調べたが、増幅条件により出現バンドが必ずしも安定ではなく、さらに検討を要する結果であった。(3)そこでアイソザイム遺伝子に絞ってキンブナ天然2集団と金魚6品種の遺伝的変異性を調べた結果、人為繁殖による金魚がどの品種も天然集団より低い変異性を示したが、強い選択圧がかかっているにもかかわらず魚類の平均的変異性を保有していた。(4)一方、キンギョとキンブナの遺伝的分化の程度を定量したところ、両者は亜種レベルの分化を示し、キンギョの品種作成には日本のキンブナ天然集団が寄与していない可能性が示唆された。(5)これらの結果から、フナ属魚類の遺伝的変異性は高く維持される機構があると考えられると共に、(6)アイソザイム遺伝子はフナ属魚類の遺伝的状態の把握と解析に有効であることが示された。ただし、(7)遺伝的変異が存在するにもかかわらず、Gpi-2、Ldh-1,2,3では依然遺伝様式の確証が得られず、今後の問題となった。
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