Chattonellaの増殖と活性酸素産生との関係について調べた結果、対数増殖期に活性酸素産生は最高値を示し、定常期及び死滅期には低下することを見出した。また、活性酸素消去酵素であるSODやカタラーゼ添加によってChattonellaの増殖が著しく抑制されることから、活性酸素はChattonellaにとって増殖因子として作用していると考えられる。さらに、SODやカタラーゼ添加によってChattonellaの著しい形態変化、及び細胞分裂が途中で止まり、数個の細胞の接した状態が観察された。また、鉄に特異的に作用するキレータの一種であるDesferalが濃度依存的にChattonellaの活性酸素産生を阻害することを見出した。ある種の植物細胞の形質膜上には活性酸素産生を司るNAD(P)H oxldaseが存在しており、この酵素はその酵素活性発現に鉄イオンを必要とすることを示す知見が得られている。植物プランクトンであるChattonellaは、高等植物と類似した活性酸素産生系を有すると推察される。また、Chattonella以外の3種のラフィド藻も活性酸素産生が認められた。一方、Chattonellaの魚毒性に関しては、Chattonella曝露時における魚鰓組織の生理的及び生化学的変化について詳細に調べた結果、Chattonella曝露後、最も初期に観察される魚体内での変化は血中酸素分圧の急激な低下であり、それに先だって魚鰓組織が大量の粘液物質で覆われガス交換能が低下することが見いだされている。従って、Chattonellaの産生する活性酸素が鰓組織からの粘液物質の異常分泌を引き起こし、鰓のガス交換能が著しく低下し、窒息死にいたるものと考えられる。事実、Chattonella曝露後のブリの鰓組織には多量の粘液物質の存在が確認されている。興味あることに、鰓粘液物質によってChattonellaの活性酸素産生が上昇することも見出されている。これまでブリ、ヒラメ、タイの鰓粘液物質について調べているが、いずれにおいてもChattonellaの活性酸素産生を上昇させたことから、これら魚種に共通した物質が刺激作用を有すると考えられるが、その実体については今後さらに検討が必要である。さらに、最近の研究において、ConAなどのレクチン添加によっても、Chattonellaの活性酸素産生が上昇したことを見出している。
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