アカフジツボリンパ液レクチンが石灰化に関与するならばレクチンは周殻中にも存在するはずである。そこで周殻中マトリックスを調製して石灰化への関連を炭酸カルシウムの結晶化阻害活性で調べたところ、低濃度で炭酸カルシウム結晶化を阻害することがわかった。ゲルろ過で分画したところ、高分子量領域と低分子量領域に結晶化阻害活性を示す2つのピークが認められた。高分子量成分についてSDS-PAGE後、免疫染色したところ、BRA-2抗体に反応する22kDa成分が認められたが、BRA-3抗体では染色される成分はとくに認められなかった。一方、アカフジツボ外套内に鋼球を挿入すると、約5週間で完全に石灰質の被膜で覆われた。異物はまずクチクラ様の被膜で覆われた後、基底部から炭酸カルシウム結晶の沈着が始まることがわかった。そこで、異物挿入5週間後、形成された石灰質を集め、そのマトリックス成分についてELISA法でアカフジツボレクチンを検索したところ、石灰質被膜1mgあたり20mgのBRA-2と3ngのBRA-3が認められた。殻底部分の石灰質中にもBRA-2が認められたが、BRA-3は痕跡程度に過ぎなかった。これらの結果はアカフジツボでは主としてBRA-2が石灰化に関連していることを示唆している。 一方、アカフジツボ類縁種のミネフジツボBalanus rostratusリンパ液にはD-ガラクトース結合特異性を示すCタイプ・レクチンが存在する。そこでアガロースゲルによるアフィニティークロマトグラフィーで精製したレクチン標品について石灰化への関連を調べたところ、33μg/ml濃度でも炭酸カルシウムの結晶化阻害活性を示さなかった。一方、リンパ液は強い結晶化阻害活性を持っており、ミネフジツボで石灰化にはレクチン以外のリンパ液成分、とくに耐熱性の低分子量成分の寄与が大きいことが推測された。
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