アカフジツボリンパ液レクチンはその大量な存在と季節変動の存在から無脊椎動物レクチンに共通していわれているような生体防御への関与だけでは説明することは難しい。我々はアカフジツボレクチンBRA群がカルシウムイオンとの結合能が高いことやリンパ液以外の周殻、蔓脚など石灰化の活発な組織にも認められることなどから、レクチンの機能の一つとして石灰化への関連を想定している。もし、リンパ液レクチンが石灰化に関与するならばレクチンは周殻中にも微量に存在するはずである。そこで周殻中マトリックスを調製して石灰化への関連を炭酸カルシウムの結晶化阻害活性で調べたところ、BRA-2抗体に反応する22kDa成分が認められた。一方、BRA-3抗体では染色される成分はとくに認められなかった。しかし、アカフジツボ外套内に代謝や包囲化や外界への排除が困難な鋼球を挿入すると完全に石灰質の被膜で覆われることがわかった。そこで、形成された石灰質を集め、そのマトリックス成分についてELISA法でアカフジツボレクチンを検索したところ、BRA-2と少量のBRA-3とが認められた。殻底部分の石灰質中にもBRA-2が認められたが、BRA-3は痕跡程度に過ぎなかった。これらの結果はアカフジツボでは主としてBRA-2が石灰化に関連していることを示唆している。一方、アカフジツボ類縁種のミネフジツボBalanus rostratusリンパ液にはD-ガラクトース結合特異性を示すCタイプ・レクチンが存在する。精製したレクチン標品について石灰化への関連を調べたところ、アカフジツボレクチンよりはるかに高濃度でも炭酸カルシウムの結晶化阻害活性を示さなかった。一方、リンパ液は強い結晶化阻害活性を持っており、ミネフジツボで石灰化にはレクチン以外のリンパ液成分、とくに耐熱性の低分子量成分の寄与が大きいことが推測され、リンパ液レクチンは種によってもその生理機能が異なる可能性が推測された。
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