世界の農業と農村は、「経済効率と環境保全」という二つの国際的政策枠組みに深く組み込まれた。経済的には国際的政策協調の一環として、また世界農業貿易システムの政策協調の一環として、二重に組み込まれ、環境保全の面では、「持続可能な開発」の国際的政策協調の一環として組み込まれた。OECDは「持続可能な農業・農村開発」の概念の具体化のために、農業政策に環境政策を統合する農業環境政策を形成してきた。本研究は、ヨーロッパ農業を対象に、国際調整圧力と環境適合圧力のもとの農業の新段階形成の実態と論理を解明することを目的とするものである。 本年度はEUを中心にして「農業環境政策の国際比較考察」のテーマで研究発表することを目標にして研究を進めた。その結果、1985年以来のEUの共通農業政策における農業環境政策の形成史と農業環境政策の原理が明らかになった。1992年のEU農政改革の補完措置としてのEU共通の農業環境政策の確立に伴い、1993年以来、EU加盟各国はそれぞれの農業環境政策プログラムの樹立の義務を負ったが、ドイツ、イギリス、フランス、オランダの農業環境政策プログラムの内容と特徴が明らかになった。そのほか多くのことが明らかになったが、例えば農業環境政策プログラムの違いを生む農法論的基礎が、明らかになった。北欧的なドイツ、イギリス、オランダと南欧的なフランスでは対照的な違いが見られる。北欧では人口密度の大きさ、工業化、都市化の進展などの理由から、水質汚染、景観劣化などを引き起こす原因である肥料、農薬などの農業資材の投入量を減らす粗放的農法への転換が進められているが、南欧では、人口密度の小ささ、人口の一極集中と農村の過疎化などの理由から、農村人口の維持に寄与し、耕作放棄地、荒廃地を生まない粗放的な草地農業や伝統的な農法の維持などが奨励されている。[この研究成果は96年4月の日本農業経済学会大会シンポジウム(『農業と環境をめぐる現実と展望』)で報告し、学会誌に公表される。]
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