本研究はヨーロッパ農業を舞台に、国際政策協調下の「持続可能な農業・農村」の形成条件の解明を目的としている。農業政策と環境政策の統合は、EU共通農業政策と加盟各国の農業環境政策に見られる。85年に発足したEUの農業環境政策は、92年のEU農政改革で拡大・充実し、手当支給の根拠を明確化した上で、手当支給地域を拡張し、援助の手法を多様化し、財政基盤を強固にした。農業政策の手法としては、環境要件と財政支出をクロスさせて政策の透明牲を高める手法である。つまり、ヨーロッパ農業は価格支持を削減し直接所得補償で補う一方、財政支出の要件として環境保全とのクロス・コムプライアンスの方法に傾斜している(=環境原理)。他方では、条件不利地域対策のように、地域政策的要件も財政支出の根拠としている(=地域原理)。 農法面から見れば、環境保全的農法への転換を政策的に指導していることを意味する。新技術の開発により、生産性でも劣らない新段階の農法の形成が奨励されている。そのため、農業資源の見方が生物的資源、美的資源まで含んでいて、広い。生態学的発想が基礎になっている。 地域経済的には、環境保全的農業・農村の基盤上に、グリーン・ツーリズムが成立する。農業の多面的機能、公益的機能をサービス産業により内部化するのが、グリーン・ツーリズムである。 このような農業の多面的機能論に基づく新しい農業保護論は、「総合的農業保護論」である。(1)環境保全的農法による新段階の農業生産力の形成、(2)国民と食品産業による国内産の食料の消費と食品原材料の使用、(3)農業エコシステムの生物的多様性の保全、(4)都市住民による農村景観の保全と農村空間の利用。このような地域資源の環境保全的利用に基づく総合的農業保護論での食料自給論には、一国内およびEU内の農業と工業のバランスのとれた発展というもう一つの視点が不可欠である。
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