研究概要 |
欧州連合(EU)における農政改革の背景と現状を分析し,改革によって導入さたEU型直接所得補償制度の問題点として次の4点を明らかにした。 (1)改革によってEUではデカップリング政策が導入されたが,それは必ずしも生産から切り離された所得支持であるとは言い難い。直接所得補償が基準年の作付面積や単収にもとづいて支払われるからである。また,補償額は国や地域により異なるものの,それは固定化され「受益権」化する傾向があることも指摘できる。 (2)EUでは直接所得補償制度の一般的導入以来,農業政策の一定部分についてはEU委員会でなく加盟国政府が直接関与すべきであるという主張が強まっている。加盟国政府はすでに直接所得補償の行政上の管理責任を負っており,制度をより効果的に運用するための情報も手にしている。その上,加盟国政府はEUの資金より自国の資金でもって政策を遂行する場合の方がはるかに責任ある行動をとるはずだといった主張である。しかし,これはCAPの「再国家化」につながる発想であり,財政の連帯責任というCAPの原則と矛盾している。 (3)個別経営レベルで作付面積やセットアサイド面積を確認し,その上で補償金を支払う直接補償制度は,多少の小経営を抱えるEUの農業構造のもとでは,大きな行政コストと不正を生む可能性がある。零細経営が数多く存在する南欧諸国ではとくにその弊害が深刻なものになると予想される。 (4)直接所得補償は農業者の社会的あるいは職能的イメージを「市場に依存する商業的農業者」から「公的援助に依存する農業者」へと転換させる。そのことは「独立自営の企業者」という職能観念を重視するEUの農業者団体にとって容易に受け入れ難いものである。
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