研究概要 |
1994年の異常渇水は,水資源の量的・質的制約性とともに都市型社会における水利用の問題点を顕在化させた.そのような状況の中で,水資源の賦存量とそれに関わる農林地機能の定量的評価法を確立するとともに,水循環を軸とした水利用の在り方を提言することは緊要の課題であるといえる. 本研究では,愛媛県内の中山間地域に設けた放牧草地・山林地・造成畑地および棚田流域で観測された雨量・流量データと,平野部で観測された地下水位データに基づいて,水源地域および平野部における水循環と農林地の機能を解析・検討した.その結果,以下のようなことが明らかとなった. 水源地域については,まず,水収支法によって流域蒸発散量を推定し,流域蒸発散は流域の乾湿の影響を受け,その影響は造成畑地流域で大きいことを明らかにした.次に,雨水保留量は,蒸発散に起因する初期土湿不足量と流域の浸透特性に依存し,流域の浸透強度は土壌条件および土地利用などによって異なることを定量的に示した.最後に,これら諸水文プロセスの総合結果として生ずる流況特性を,流量安定化機能の観点から定量的に評価するための方法を提案した.そして,山林地流域の流量安定化機能が造成畑地よりも大きいことなどを明らかにした. 一方,平野部においては地表領域で一斉水収支観測を行い,地表領域から地下水帯への涵養特性を検討した.その結果,灌漑期では地表水への流入水の大半が地下水帯へと涵養されるのに対して,非灌漑期では流入水の多くが海へと直接流出することを指摘した.また,地下水を含む水収支モデルを開発して,対象地域全体の水収支構造を検討し,地域の地下水に果たす農林地(とくに水田)の機能を明らかにした.
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