カゼインミセル中のカルシウム(Ca)と無機リン酸(Pi)は溶解相のそれと平衡状態にあるが、その実態はまだ十分明らかにされていない。昨年度はカゼインミセル分散液にでラジオアイソトープラベルした^<45>Caと^<32>Pを添加して、放射活性を調べることによりCaとPiの挙動を調べた。今年度は、より直接的にCaとPiの挙動を調べるため、CaとPiを用いて人工ミセルを調製し、ミセル性リン酸Caの挙動を平衡透析法および高速液体ゲルクロマトグラフィー(HPLC)で調べた。なお、人工カゼインミセルのカゼイン濃度は2.5%とし、Caは30-40mM、Piは22-27mM、クエン酸は10mMとした。30mMCa、22mMPiで調製した人工カゼインミセルを人工乳清に対して4°Cで72時間透析すると、ミセル性CaとPiはそれぞれ24.8%と35.2%に減少した。すなわち、4°Cではミセル性Caの75%、ミセル性Piの65%が溶解相のそれと交換した。また、25°Cで透析するとミセル性リン酸Caの81.7%、ミセル性Piの77%が溶解相のそれと交換された。ミセル性CaおよびPiと溶解相のそれとの交換性は温度依存性であり、温度が低いと交換されにくいことが明らかとなった。30mMCaと22mMPiで調製した人工カゼインミセルを6M尿素で解離後HPLCを行うと、透析前のものはミセル性Caの26.9%、ミセル性Piの27.6%がミセル性リン酸Ca架橋カゼイン会合体(F1)画分に溶出し、4°Cで72時間透析したものではミセル性Caの9.8%、ミセル性Piの9.9%がF1画分に溶出した。 これらのことから、ミセル性リン酸カルシウムと溶解相中のそれとの交換反応はゆっくりと進行し、その一部は交換されにくいことが示唆された。
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