研究概要 |
ヒトを初めとして,哺乳類の血液中に存在する新しいレクチンが,生体防御に果たす役割を解明するため,我々はそれらレクチン蛋白質の精製と,生化学的・免疫学的性状を調べてきた.その過程で,ガングリオシドやリン脂質の結合するレクチン様蛋白質を見出した.この蛋白質は市販のゲル濾過剤であるSephacryl Sシリーズのゲルに強く結合し,NH_4OHを1%程度含む緩衝液で容易にゲルから解離された.そして,この蛋白質は通常の精製法(ゲル濾過法,イオン交換法等)によって,高度に分離・精製する事が可能であった.得られたレクチン様蛋白質を還元下で電気泳動すると,86kDaと59kDaの2本のバンドを現し,非還元下では140kDaのバンドを示した.この結果は,ヘテロな分子がジスルフィド結合していることが示唆された.更に,ゲル濾過法による分子量の測定では数十万の分子量域に排出されることから,この蛋白質は生体内ではポリマーを形成している事が予想された. 一方,このレクチン様蛋白質が認識する生体構成成分とその構造を調べた.ヒトの赤血球に結合する事から,糖質や脂質に関連した物質をこの蛋白質が認識するものと予想した.その結果,ガングリオシドの一種であるGM_3,代表的なリン脂質のフォスファチジルセリンやフォスファチジルグリセロールに親和性を示し,血球への結合は2価の金属を要求しないことも明らかになった.又,この蛋白質はPseudomonas aeruginosaやProteus morganii等のグラム陰性菌も凝集する事が示された.この結果は,この蛋白質が肺胞表面蛋白質(PSAP)と類似し,傷害を受けた生体部位や腸管系を介して侵入してくる病原菌に対し,免疫系が発動される前段階において生体防御に関与しているものと予想された.そして一部のアミノ酸配列の解析からIgMのH鎖に類似した構造を有している事が明らかになった.
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