昨年度の研究において、卵管環境下で体外培養した4細胞期胚の細胞接着面にカドヘリン分子の局在していることが間接蛍光抗体法によって明らかになった。本年度の研究では、このカドヘリンタンパク質の局在と、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たすと考えられているGap Junctionの形成について検討した。その結果、卵管環境下の体外培養で発生した4細胞期胚においては、Gap Junctionの形成も認められた。一般に、カドヘリンの局在やGap Junctionの形成は8細胞期のコンパクション時に誘導されることが分かっているが、体外での卵管環境によってこれが早期に誘導されることが明らかとなった。また、体外での卵管環境によって細胞接着が増大した4細胞期胚をプロテインキナーゼC(PKC)阻害剤で処理すると、割球間の接着が阻害されることが観察されたが、割球の偏平化は阻害されなかった。しかしながら、プロテインキナーゼA(PKA)阻害剤でこの胚を処理すると、割球の偏平化も阻害されることが観察され、割球間の接着と割球の偏平化は種類の異なるリン酸化酵素によって調節されていることが示唆された。リン酸化酵素阻害が実際にカドヘリンの局在や、Gap Junctionの形成にどのように作用するかは今後の課題である。また、本年度の研究では、卵管の影響が発生停止を解除し細胞を分裂に導くことから、細胞分裂に大きく関与するp34^<cdc2>キナーゼの活性についても測定し、卵管の影響が初期胚の細胞周期の機能に与える影響についても検討した。その結果、卵管環境下で培養した胚においては、分裂後20時間からp34^<cdc2>キナーゼ活性は上昇し始め、21時間でピークに達して、24時間で完全に低下した。しかしながら、発生停止を示す条件下では、p34^<cdc2>キナーゼ活性の上昇は認められなかった。また、発生停止を示す胚においてもDNA合成は完了しているため、発生停止がG2期に起こることが確認された。また、その時期の核の形態を観察した結果、発生停止胚では核膜の崩壊や染色体の凝縮は観察されなかった。また、この胚をokadaic acidで処理すると、核膜の崩壊と染色体の凝縮が観察されることから、G2期における発生停止には減数分裂におけるdictyate期での停止と共通のメカニズムが存在している可能性が示唆され、卵管環境が発生停止を解除するなんらかにシグナルを供給していることが明らかとなった。
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