本研究は、哺乳動物初期胚におけるカルシウムイオンの役割を追究するために本年度より実施した。初年度の本年は、特にマウス胚の第一および第二細胞周期のカルシウムイオンの変動および精子由来のカルシウムイオン放出活性について検討し、当初の目的を十分に達成した。得られた結果を要約すると、以下の通りである。 1)マウス排卵卵子を体外受精し、受精後のカルシウムイオンの変動を詳細に調べた結果、受精により生じたカルシウムイオンのオッシレーションは、前核が形成される時期、すなわち受精後4-5時間目に消失することが明らかとなった。 2)受精卵の第一細胞周期におけるカルシウムイオンの変動を調べた結果、核膜の崩壊直後に、一過的カルシウムイオンの上昇が認めら、核からのカルシウムイオン放出因子の細胞質への放出が考えられた。しかし、第二細胞周期ではこの様な、カルシウムイオンの上昇は認められなかった。 3)一方、受精することなく発生させた単為発生卵では、第一細胞周期におけるカルシウムイオンの上昇は全く認められなかった。 4)さらに、受精卵と単為発生卵の前後置換を行ったところ、カルシウムイオンの放出活性は、受精卵の核に特異的に存在していることを突き止めた。 これらの結果から、受精卵の核に特異的に存在するカルシウムイオン放出活性は、受精時に精子から卵子に持ち込まれ、第一細胞周期にその活性を示しているものと考えられたが、その生物学的な役割については今のところ不明である。
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