研究概要 |
形態形成や老化の過程で観察される細胞死の中には,プログラム細胞死あるいはapoptosisと呼ばれる細胞の自殺機構が存在することが知られている.apoptosisは,発生・老化・ガンなど重要な生命現象に原因として深く関与していると考えられ,apoptosisの発生機構の解明とその人為的操作が可能となれば、畜産学,獣医学および医学への応用は計り知れないものがあると考えられる.apoptosisにおいては,細胞死を目的とした新しい遺伝子発現やシグナル伝達の活性化が生じることが明らかにされている.これまでに,apoptosisが生じる組織から,apoptosis時に誘導される遺伝子がいくつか単離同定されているが,組織特異性を越えて,apoptosis一般に要求される最初期遺伝子は,今のところまだ同定されていない.本研究では、cDNAサブトラクション法を用いて,apoptosis特異的なcDNAクローンを単離することを目的としている。 報告者は、ラット黄体において、プロラクチンにより誘導される形態的退行の過程にアポトーシスが生じていることを明らかにした。さらに本研究では、ラット黄体をモデルとしてアポトーシス開始時に誘導される遺伝子群の探索を行った。黄体に、プロラクチンによりアポトーシスが誘起される前後に黄体を採取し、それぞれのcDNAライブラリーを作成し、cDNAサブトラクション法を用いて、細胞死開始直後(プロラクチン感作後1時間)の黄体に特異的に存在する遺伝子を164クローン単離した。雄ラットを去勢すると,前立腺にアポトーシスが誘導されることが知られている。黄体より得られた遺伝子から、アポトーシス一般的な遺伝子を抽出する目的で、黄体と前立腺双方において細胞死開始時に発現量が増加する遺伝子(programmed cell deathrelated gene;PCDR genes)をノーザン解析により選別し、それらの遺伝子の塩基配列の一部を同定したところ、ミトコンドリアATPase、TGFβ、亜鉛結合蛋白質の3種類の既知遺伝子の他に、6種類の未報告遺伝子が含まれることが明らかとなった。
|