伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)による免疫抑制機序を分子生物学的に解明した。 1.超強毒型IBDVの弱毒化および血清学的性状の解析:超強毒型IBDVを発育鶏卵で継代馴化後、鶏胚馴化株の感染した鶏胚からCEF細胞を調製し細胞馴化株を確立した。鶏胚およびCEF細胞馴化株の雛に対する病原性は著明に減弱していた。超強毒型IBDVの抗原性状は従来型IBDVと異なることが示唆された。 2.超強毒型IBDVゲノムの塩基配列の解析:超強毒型IBDVに特異的なアミノ酸残基が前駆タンパク質に9ケ所およびVP1に8ケ所認められ、弱毒化に伴うアミノ酸置換がVP2の変異領域に4ケ所(256、279、284および315番目)およびVP3に1ケ所(805番目)認められた。このうち、279および284番目の置換は、他の細胞馴化弱毒株にも共通に認められた。また、弱毒化により超強毒型IBDV特異的な256番目のアミノ酸残基に置換が認められ、超強毒型IBDVの病原性発現に256、279および284番目のアミノ酸残基が関与している可能性が推察された。 3.超強毒型IBDVの系統解析:国内分離超強毒型IBDVはヨーロッパ分離超強毒株とクラスターを形成し、日本の超強毒株がヨーロッパに由来することが強く示唆された。文節Aにコードされている前駆タンパク質、VP2、VP3およびVP4の塩基配列から作製した系統樹は、すべて同様の樹型を示し、超強毒型IBDVは従来型IBDVと近縁なクラスターを形成した。一方、分節BにコードされるVP1の塩基配列から作製した系統樹は、上記の系統樹とは樹型が大きく異なり、超強毒型IBDVは従来型IBDVと明らかに異なるクラスターを形成した。このことから、超強毒型IBDVゲノムの各分節は異なる起源に由来していることが示唆され、超強毒型IBDVの出現が遺伝子再集合による可能性が推察された。 4.弱毒生ワクチンの鶏継代による変化:弱毒生ワクチンを鶏で継代し、継代前後の病原性と塩基配列の変化を解析した。ワクチン接種鶏には継代過程でファブリキウス嚢の萎縮が観察された。また、継代過程で前駆蛋白質VP2領域の253番目のアミノ酸残基にHis→Glnのアミノ酸置換が予測され、ウイルスの病原性VP2領域の253番目のアミノ酸残基が重要な役割を持つことが推察された。 5.ウイルスレセプターの解析:ピオチン標識した超強毒型IBDV OKYM株を用い、各種細胞に対する吸着およびレセプターの生化学的性状をフローサイトメトリーにより解析した。各細胞への吸着率は感染率と良く相関し、B細胞由来のLSCC-BK3細胞が最も感受性が高かった。また、ウイルス吸着陽性細胞はsIgM陽性で、ウイルス吸着はプロテアーゼおよび蛋白質への糖鎖修飾を阻害するツニカマイシンにより阻止され、IBDVのレセプターがsIgM陽性細胞に特異的に発現される糖蛋白質である可能性が推察された。
|