本研究では二種の血管病態モデルを作成し、それぞれの機能変化に蛋白キナーゼがどう関与するかを検討した。一つは、ウサギ頸動脈に挿入したバルーンカテーテルにより内皮を剥離する手術を施し、その6週後に頸動脈の組織変化を観察すると、顕著な内膜肥厚が認められた。その血管ではプロスタグランジンP_<2α>(PGF_<2α>)に対する収縮反応が増加していた。細胞質Ca^<2+>濃度上昇は両血管で同等であるにもかかわらず、ミオシン軽鎖リン酸化の亢進が認められた。セリン・スレオニンキナーゼ阻害薬は肥厚血管での収縮、ミオシン軽鎖リン酸化をより強く抑制した(論文に発表)。チロシンキナーゼ阻害薬も収縮を抑制したが、その効果は正常血管と差がなく、チロシンキナーゼは肥厚形成には関与するが、収縮性亢進には影響しない可能性が示唆された。もう一つの実験では、ラットにモノクロタリンを皮下注射して肺動脈内皮障害による肺高血圧を作成し、その肺動脈の性質を調べた。肺高血圧が確立した3週目に肺動脈は顕著な中膜肥厚を呈し、内皮は存在しているにもかかわらず、内皮の弛緩機能は著しく損なわれていた。この肺動脈は静止状態でも収縮した状態にあり、それは細胞膜が脱分極し、静止時の細胞質Ca^<2+>濃度が上昇しているためであり、その原因として内皮による血管調節機能の異常が考えられた。収縮薬に対する反応は時期によって亢進、あるいは低下が認められたが、PGF_<2α>に対する収縮反応が亢進しているときチロシンキナーゼ阻害薬はモノクロタリン血管に対しより強い抑制効果を示した。これよりこのタイプの肥厚血管の収縮性変化にはチロシンキナーゼが関与する可能性が示唆された。(投稿論文を準備中) この他、各種蛋白キナーゼ阻害薬の選択性を評価した(論文に発表)後、ウサギ大動脈でのPGF_<2+>収縮の性質を検討したところPGF_<2α>によるCa^<2α>の流入にはチロシンキナーゼが関与する可能性が示された。また、プロテインキナーゼC活性化による収縮におけるCa^<2+>感受性増加の機序を検討し、ミオシン軽鎖脱リン酸化の抑制がその機序の一つであり、それにアラキドン酸が関与することを見いだしたが、この経路にチロシンキナーゼは関与しないことが示唆された(論文投稿中)。
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