当初計画のうち、イヌの糞線虫(Strongyloides stercoralis)、ウシの糞線虫(S.papillosus)、ブタの糞線虫(S.ransomi)の成虫をW/W^Vマウスと対照の+/+マウスの十二指腸に外科的に移入し虫体の排除にかかる期間を比較したところ、S.stercoralisの排除には肥満細胞欠損マウスであるW/W^Vの方が+/+マウスより明らかに長期間を要した。一方、S.papillosusやS.ransomiの場合には両マウス間で著明な差がみられず、きわめて短期間のうちに虫体が排除された。現在、排除のメカニズムを詳細に調べるために両マウス小腸の粘膜肥満細胞と杯細胞の数および性状を組織化学的に検討中である。 また同時進行していたスナネズミ腸管粘膜肥満細胞のトリプターゼ(gMCT)のcDNAクローニングに成功した。cDNAは810bpのオープンリーディングフレームを有し全長1219bpであった。gMCTのmRNAの発現をスナネズミの組織別に見ると、腸管粘膜に最も多く、皮膚や舌の筋肉中には非常に少なかった。 上述のようにS.papillosusやS.ransomiの排除には肥満細胞以外の別の機構が介在している可能性が示唆された。我々の今までの研究結果からネズミ糞線虫もハムスターから排除されるときには杯細胞のムチンにより排除され得ることが解っている。このように、同種の寄生虫でも宿主が異なるとエフェクターが本来と異なる利用のされ方をする可能性があることから、今回のように通常の宿主-寄生虫の組み合わせ以外の寄生虫を移入した場合、宿主が別の機構を動員して寄生虫を排除している可能性が考えられる。したがって、肥満細胞以外に杯細胞の数的変化はもちろんムチン糖鎖の変化を見ることによってマウスの粘液による防御にもラットと同じく多様性を見つけることができるかもしれない。
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