イヌの糞線虫(Strongyloides stercoralis)、ウシの糞線虫(S.papillosus)、ブタの糞線虫(S.ransomi)の成虫をW/Wマウスと対照の+/+マウスの十二指腸に外科的に移入し虫体の排除にかかる期間を比較したところ、S.stercoralisの排除には肥満細胞欠損のW/Wの方が+/+マウスより明らかに長期間を要した。一方、S.papillosusやS.ransomiの場合には両マウス間で著明な差がみられず、きわめて短時間のうちに虫体が排除された。このうちS.papillosusについてはマウス以外の齧歯類でも調べたところ、スナネズミやハムスターにおいてよく定着することがわかった。しかし、定着後に宿主消化管の麻痺性イレウスを引き起こし、宿性が死亡することから、現在その原因を究明中である。 また同時進行していたスナネズミ腸管粘膜肥満細胞のトリプターゼと2種のキマ-ゼのcDNAクローニングに成功した。その配列と発現部位をマウスやラットのそれと比較すると、スナネズミのものは結合組織型のプロテアーゼに相当するもので、RNAブロットでも皮膚、粘膜共に同じプロテアーゼが検出された。 上述のようにS.papillosusやS.ransomiの排除には肥満細胞以外の別の機構が介在している可能性が示唆された。我々の今までの研究結果からネズミ糞線虫もハムスターから排除されるときには杯細胞のムチンにより排除され得ることがわかっている。このように、同種の寄生虫でも宿主が異なるとエフェクターが本来と異なる利用のされ方をする可能性があることから、今回のように通常の宿主-寄生虫の組み合わせ以外の寄生虫を移入した場合、宿主が別の機構を動員して寄生虫を排除している可能性が考えられる。
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