研究概要 |
コロナウイルスはヒト、家畜、家禽や実験動物の消化器系、呼吸器系、神経系組織に感染し、様々な病気を引き起こし、特に獣医学領域では大きな問題である。感染防御の観点から、ウイルスとウイルスリセプターの特異的な結合のメカニズムを解明することは極めて重要である。 我々は、マウス肝炎ウイルス(MHV)を用いて、MHVリセプターへの結合に関与するウイルス側の蛋白に関する解析を行ってきた。今までに、ウイルス粒子表面に存在するスパイク(S)蛋白のN末端330個のアミノ酸(S1N330)が、リセプターとの結合に重要であることを明かにした。更に、S1N330の中のN末端から62番目のThrをSerに、212、214,216番目のアミノ酸Thr、Tyr、Tyrを各々Serに置換するとS1N330のリセプター結合能力は消失するか、著しく低下することが明かにされた。このことから、S1N330上のリセプター結合部位は、分子上の異なる部位から構成され、その中で62,212,214,216番目のアミノ酸が重要な働きをいていることが示唆された。今年度は、可溶性リセプターに結合能力の低いウイルス変異株を分離し、そのS蛋白を解析することにより、リセプター結合部位の同定を試みた。その結果、S1N330の65番目のアミノ酸に変異のある蛋白は、リセプター結合能力が著しく低いことが判明した。これらの結果から、S1N330で62から65番目のアミノ酸を含み、殆ど全てのMHV株に保存されているアミノ酸領域が、リセプター結合活性に極めて重要であろうと推測された。
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